スワンボートを漕ぎながら

元文学部生のぼやきです

『ぼくを探しに』を観た

シルヴァン・ショメ監督の『ぼくを探しに』を観ました。
先週イリュージョニストを観て、ショメ監督の世界観にすっかり魅了されてしまい「実写作品も観てみよう」ということで本作を借りました。

沈んでしまった記憶を「釣り上げる」

はじめに簡単なあらすじを紹介します。

幼い頃に両親を亡くしたショックから、言葉を話すことができなくなった主人公・ポール。伯母たちにピアニストになるよう育てられたポールですが、本人は両親の死を引きずったまま、賞も獲得出来ずに大人になります。そんな彼は、ある日、同じアパートに住むマダム・プルーストという謎の女性と出会います。彼女の淹れたハーブティを飲むと、幼少期の記憶が少しずつ蘇り、ポールは徐々に両親の死を受け入れられるようになります。

イリュージョニスト』もそうでしたが、主人公は喜怒哀楽が非常に乏しく、口数も少ない(全くない)です。日常生活は機械的ですし、何しろ主人公自身が退屈そうにしています。しかしだからこそ、一つ一つの表情や動きが持つ意味が大きくなり、観客も主人公の行動が楽しみで仕方なくなるんですね。私は本作を観ながら、ポールが笑顔になるたびに泣きそうになっていました。

また、主人公を取り巻く周囲の人々も非常に魅力的です。伯母さんはどこか憎めないし、全員に対してツッコミを入れたくなるし。
主人公含め、登場人物全員に役割を与えることで、観客は物語の世界観に惹き込まれてしまいます。それはある種の魔法のようであり、脚本が精練されているからだと思います。脚本はショメ監督自身が担当されたそうです、お見事。

★★★

物語に登場するマダム・プルーストという女性ですが、彼女の名前は『失われた時を求めて』を書いたマルセル・プルーストに由来しています。あの長ったらしい小説を書いた文豪ですね(未読なのに失礼ですみません)。
プルーストと聞くとプルースト効果を思い出す方もいると思います。
プルースト効果とは「嗅覚や味覚から過去の記憶が呼び覚まされる心理現象」です。まさに本作品の物語の通り。

さて、このプルースト効果ですが、みなさんも体験したことはありませんか?
中学時代に聴いていた音楽を大人になってから聴くと、当時の情景が鮮明に蘇ってきたり。もしくは、カレーの臭いを嗅ぐと夕方六時の茶の間の光景を思い出したり。

私は「チャットモンチー」の曲を聴くと、中学時代の記憶が蘇ってきます。部活動を終え帰宅し、どこか涼しげな部屋で横になっている私。また、さだまさしの「精霊流し」を聴くと、母親が夕食を作っている光景が鮮明に思い出されます。個人的な体験すぎて謎ですね。

でも、私は「匂い」によって記憶が蘇ることが滅多にありません。というのも、左の嗅覚が全く機能していないんですね*1。小学生の頃にインフルエンザを患い、鼻を啜りすぎたのが原因らしく、病院では軽い副鼻腔炎だと診断されました。幸いにも右の嗅覚は機能しており、さして支障はなく、面倒なので治療はやめてしまいました。ただやはり「匂い」には疎いです。

★★★

本作ではプルースト効果を「トラウマに対する治療薬」として扱っています。無意識下に沈んでしまったトラウマを呼び覚まし(マダムは「釣り上げる」と表現しています)向き合うことで、本当の自分の人生を見つけ出すことができる。一時期「自分探し」が流行になり、バックパッカーとして海外旅行をする若者が増えたそうで。現在でも自由な時間を持て余した大学生に多いらしく、私の周りを見ても何人かいます。

ただ、当たり前ですが、海外などには「本当の自分」はありません。探すのであれば「自分の無意識下」です。本作のポールのように、自分の過去と向き合うしかありません。でもこれって、自分を客観的に見る訳ですから、非常に難しいんですよね。トラウマと向き合う時であれば尚更です。

私も精神分析学にハマっていたころ、自分のトラウマを釣り上げようと様々な種類の釣り針を垂らしてみましたが、精神が不安定になり中断しました。
ですので、自分と向き合う時は、本作のマダム・プルーストのような他者の協力の元で実践してみるのがいいかも知れません。もしくは、手当たり次第懐かしい曲を聴くとかであれば、簡単に実践できそうですね。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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*1:友人などに確認したことがないので、もしかしたら私だけではないのかも知れません。みなさんは両方の嗅覚が正常に機能していますか?

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